更新日 2021年12月31日
私が幼い頃、母はスキレット(鋳鉄製のフライパン)でたくさんの料理を作ってくれました。 ハンバーグや餃子、野菜炒め、ときにはホットケーキのような甘いものも作ってくれました。 今でも好きなメニューばかりです。
私が初めて料理を習ったときもスキレットが使われました。 母が教えてくれた最初の料理は目玉焼き。 「水を差してから蓋をして蒸す」というコツは想像すらできない驚きでした。 また、自分で作ったものが「おいしい」と思える初めての体験でもありました。
いろいろな思い出が詰まったスキレットでしたが時代の変化には抗えず、徐々に使われなくなります。 フッ素加工のフライパンが我が家でも採用されたのです。
「軽くて焦げ付きにくい」という革新的な新機能は、母から“重い”スキレットを取り上げるには十分なパワーを持っていました。 フッ素加工のフライパンへ切り替えたのは当然の流れだったと思います。
割とモノを捨てられないタイプの母は(悪くいうと貧乏性なんですが)、使わなくなったスキレットを捨てずに台所の奥へしまい込みました。 ただ、それ以降、我が家でその存在は忘れられていきました。 30年もの間…。
そんな中、転機が訪れました。 IHのクッキングヒーターが我が家にも導入されることになったのです。 2010年頃でした。 経験された方も多いと思いますが、それまで使っていた鍋やフライパンもIHで使えるものと使えないものがあって、使えないものは残念ながら世代交代となります。
家にある全部の鍋やフライパンを順番にヒーターへかけ、「これはオッケー」「これはダメ」といった感じで母と一緒に仕分けしてみました。 当時、私が最も愛用していたのは中華鍋だったのですが、底の丸い中華鍋はNGです。 他にもダメだった鍋やヤカンもありましたが、お気に入りの中華鍋が使えなくなったのは残念でした。
その頃の私はレパートリーも増え、賞味期限の切れた豆腐を火に通して麻婆豆腐にしたり、冷凍庫で水分の抜けてしまった肉を炒めてチャーハンの具にしたり、中華鍋は使い勝手の良いパートナーだったのです。
そんなとき、ずっと使われていなかったスキレットと再会しました。 ずっと昔に付いたススはもちろんのこと、赤サビとホコリにまみれた姿は言葉通りボロボロ。 フッ素加工のフライパンに切り替えた当時の母や私には「シーズニング」という知識はなく、鉄をむき出しにしたまましまい込んでしまっていたのです。
ボロボロとはいえキレイにすれば使えそうな雰囲気はありました。 しかも、IHもオッケーなら捨てる理由はありません。 赤サビの浸食は深くなかったので、私(貧乏性の二代目)は捨てずに再生できないかと考えました。
今でこそスキレットのシーズニング方法などを紹介している私ですが、お恥ずかしい話、そのときの私には「シーズニング」や「油ならし」という知識はありませんでしたし、「スキレット」という名前すら知りませんでした。 母と私の間では単に「フライパン」で通じていたので。
ただ、いろいろと調べていくと、それは「スキレット」という名前があることや「シーズニング」という処理をすると扱いやすくなることなど知りました。 小学生の頃は全く意識したことのなかったスキレットのメリットとデメリットなども。 不思議ですが、知れば知るほど面白いおもちゃを手に入れたような感覚でした。
「これを復活させて、もっと料理を楽しもう!」
それが、今、私がスキレットを再生するきっかけになりました。
シーズニングには火の入れ方や使う油の種類など、いろいろな方法がありますが、世間には誤ったシーズニング方法が見受けられます。 例えば、「オリーブオイルでコーティングしましょう」というもの。 オリーブオイルは熱や酸化に強いためシーズニングには向いていない油です。
ほかにも、「クズ野菜を炒めると鉄臭さを消せる」など、化学的な根拠のない都市伝説まで紹介されていました。 ちゃんとシーズニングをすれば鉄臭さなど感じませんし、食材に臭いが移ったこともありません。
不思議なことに、誤ったシーズニング方法が「~だと思います」や「~らしいです」といった無責任な口調で紹介されているのです。 それらの情報サイトを読んで、私はモヤモヤが消えませんでした。
「そのシーズニング方法って、間違ってるじゃん」って思ったのです。 私は理系でしたので油の性質を勉強したことがありました。 ところが、まったく化学的に正しいとは考えられない方法が紹介されていたのです。 で、私の出番だと思った次第です。
ここでは化学的な根拠をもとに写真入りで分かりやすくシーズニング方法を解説していきます。 しかも、できるだけ簡単に。 クズ野菜を炒める作業などムダですから必要ありませんし紹介しません。
また、さまざまなシーズニング方法を調べながら自分で実際に試してみました。 中には失敗したこともありますし、懐疑的な情報に関してはあえて実験的なことにもチャレンジしてみました。 私の失敗談も隠さずに紹介していこうと思います。
あなたがシーズニングに失敗する前に私が失敗しておきましたので、あなたは遠回りする必要はありません。 私の知識と経験を総動員して包み隠さずレクチャーします。 面倒なシーズニングはちゃちゃっと済ませて、あなたのスキレットを思う存分に酷使してあげてください。
スキレットには華があります。 日常の料理でも活躍しますが、バーベキューやキャンプに持って行けば雰囲気を盛り上げてくれるアイテムになります。 漆黒のいでたちは盛り付けた料理の色を引き立てるので器としても写真に映えます。
そして、あなたが育てた可愛いスキレットを、いずれ大切な人に引き継いであげてください。 私が母から貰ったスキレットで得たノウハウが、少しでもあなたの人生に潤いを与えることができたら幸いです。
貧乏性のスキレット二代目